コント「僕に彼女ができたんだ」
コント「僕に彼女ができたんだ」
〈起〉
若林「次の方、杉山さん、どうぞ」
杉山「失礼します」
若林「はいはいどうぞ。今日はどうされました?」
杉山「……あの、今日は」
若林「今日はあなたで最後ですからね。もう外は真っ暗ですよ」
杉山「はい、あの、僕こういう病院?に来るの初めてで、自分が病気なのかとかもあんまわかってないんですけど、」
若林「はいはい大丈夫ですよ、みなさん最初は不安ですから」
杉山「……はい。あの、それで今日来たのは」
若林「しかしあなたずいぶん太ってますね。ポケモン、じゃないんだぜ」
杉山「そうですね、太ってしまって。それで今日来たのは」
若林「ポケモンってなんか、こうヌメヌメしてる気がしません?あんまり毛が生えてる感じがしないですよね?」
杉山「え、はあ」
若林「え、ポケモンじゃ、ないですよね?」
杉山「え、いや、違います」
〈承〉
小山、奥から登場。
小山「先生、ポケモンの時代は終わりですよ!時代は、シンナーですよ!スーハースーハー」
若林「ああそうだよね。シンナーって2021年の今でも大人気…ってそんなわけねえだろ!」
小山「いけね、うっかりのペコりんちょ」
若林「でた、テツオ君のペコりんちょうっかりバージョン。杉山さん、ついてますね!」
杉山「え?」
小山「からの~~~三転倒立!」
若林「きたきたきたー!」
杉山「……その方は?」
小山「あ、僕ですか?」
若林「ああ、失礼しました。彼は当院の名物患者のテツオ君です。もう僕に懐いちゃって。まあ犬みたいなものですよ」
小山「はい、僕は重度の鬱病で職と恋人を失いました!おかげで今は先生の愛犬です!」
若林「テツオ君、問診票とって」
小山「はい、了解です」
杉山「うーん、怖い病院来ちゃったなー。あの!……僕は自分が病気だと思うんです。一番酷いのは幻覚で。統合失調症とか、そういうのじゃないかと」
若林「なるほど幻覚ですか。例えばどんな……あ、餌の時間だ。はい、テツオ君、キモチヨクナールだよー」
小山「わー美味しくて気分が良くな~~~~るーあへあへ~」
杉山「ああ、現実と幻覚の区別がつかない。もうだめだ。何もかも終わりだ」
若林「まあ落ち着いてください。杉山さん、とりあえず統合失調症の薬出しときますから。それ飲んでまた来週来てください」
杉山「え?」
若林「へ?」
杉山「いや、そんなあっさり出していい薬なんですか?」
若林「いや、だって統合失調症なんでしょ?今の時代、珍しくもなんともないですよ」
小山「統合失調症と掛けまして、ドアノブと解きます。その心は‥駄目だ思いつかない。先生、もっとキモチヨクナールを(若林、小山の皿にキモチヨクナールを盛る)」
杉山「いやだって、普通検査とかするもんじゃないんですか?あれですよ本で読みましたよ。精神科には毎日たくさんの人が自分を病気だと信じてやってくるけど本当に病気の人は一握りだって」
若林「あなた、あなたそれは悪い本を読みましたね。あのね、医者は患者を疑っちゃいけないんです。もう心配はいりませんから」
杉山「と、とにかく検査をしてくださいよ」
若林「あのね、私を舐めてもらっちゃ困ります。私くらいになるとね、わかっちゃうんですよ。あなたはどっからどう見ても統合失調症です」
杉山「お願いです。一度だけでいいんです」
若林「仕方ないですね、わかりました。じゃあ、これなんに見えます」
杉山「……え、問診票じゃないんですか」
若林「ぶぶー、白いノリでした。はい、テツオ君、白いノリだよ」
小山「むしゃむしゃ。こ、これはノリ界の名誉白人や!」
杉山「ああもうダメだ。俺は統合失調症だ」
若林「じゃ薬出しときますね。来週の同じ時間にまた来てください。(小山、こっそり紙を吐き出し、ゴミ箱に捨てる)えーとこれとこれを1ミリずつで」
杉山「え、いま口から紙捨ててませんでした?」
若林「そんなことないっすよ。君は本当に幻覚がひどいな。あとはこれを2ミリと……」
杉山「先生」
若林「おっとさすがのヘビーな統合失調症だ。これもつけときますよ」
杉山「おい」
若林「あとはこれを1ミリでおしまい、と」
杉山「おい」
若林「初回特典でキモチヨクナールも……」
杉山「あああああああああああ(机を蹴り上げる)」
若林「あ、何するんですか」
〈転〉
杉山,、血に濡れたナイフを取り出して振り回す。
若林「うわうわうわ」
杉山「もう頭が割れそうなんです。とにかく検査してください」
若林「……は、はい」
杉山「夢を見たんです。ちょうどこんなような診察室で、血まみれの白衣の男と一匹のイヌと、すき焼きをつつく夢を……」
若林「すきやき、ですか……」
杉山「それも相談したくて。これはいったい現実なんですか?」
若林「……なるほど!と、とりあえず検査しましょう。おいテツオ君、検査用紙持ってきて」
小山「(スーパーマラドーナ田中のように)えーーーー!マジすか!!」
若林「そういうのいいから」
小山「え、はい」
小山、パネルを取りにはける。
杉山「(嬉しそうにナイフを構えたまま)あーよかった!検査してもらえなかったらもう大暴れしてやろうかと思ってましたよ」
若林「え、あ、はあ」
杉山「どうかしました?」
若林「いやいやいや、なんでもないです、大丈夫です!テツオくーん!まだなの!?」
小山、虫取り網を持ってくる。
小山「先生、ありました!(虫取り網を持ってきて杉山にかぶせる)」
小山「え、これもう検査始まってます?」
若林「もういいから!ほんとに!」
小山「いけね、うっかりのペコりんちょ」
杉山,、ナイフを振り回す。
若林「すいませんすいません!えっと、じゃあ検査をしましょう」
杉山「はい、お願いします」
若林「えー、今からおこなうのは簡単な心理テストです。私がお題を出しますので、それに関して杉山さんの意見を聞かせてください。その結果で総合的に症状を判断させていただきます」
杉山「なるほど、お願いします!」
若林「まずは、えー、ペン、です。ペンと聞いて何を連想しますか」
杉山「…」
若林「大丈夫ですよ。思いついたことで」
杉山「人を、刺すものですね」
若林「病気ですね」
杉山「えーーーー!」
若林「いや、完全に病気でしょう。普通『人を刺す』なんて出てこないですよ」
小山「人を刺すと掛けまして、女の子に言っちゃいけない言葉と解きます。その心は「ブスッ」でしょう。ブスブス」
若林「…べ、別のお題にしましょう。じゃあ…電話、にしましょう。電話について、杉山さんどうお考えですか?」
杉山「人殺しの道具じゃないですか!本体で殴ってよし、コードで絞めてよし殺し放題じゃないですか」
若林「ああ、どうしよう。何なら人殺しと関係がないんだ」
小山「あ、そろそろお昼の時間ですよ。僕、ハンバーガー食べたいです」
杉山「いや、もう殺してるじゃないですか。ハンバーグといえば人肉、人肉と言えば殺人ですよ」
小山「え、マックの肉って犬の肉じゃないんですか?」
若林「いい加減にしてください!こっちは早く健康体であることを証明したいのに!」
杉山「それはこっちのセリフですよ。さっきからなんですかペンとか電話とか……全部人殺しに使うものじゃないですか!そんなに僕を異常者にしたいんですか」
若林「ええ…どうしたらいいんだ」
杉山「もっと日常的なお題にしてください。(自分の持つナイフに視線を向け)ナ、ナイフとか」
若林「いや、どうでしょうね……じゃあ、テーマを変えましょう。じゃあ、じゃあ女性についてどういうイメージがありますか?(杉山、一瞬考えこむ)今度はテツオ君から先に答えてもらいますから。テツオ君」
小山「はい、女性は、男たちの心を優しくケアします」
杉山「いやジェンダー観やばいな」
若林「そういう感覚はあるんだ」
杉山「女性はガンガン社会進出したほうがいいと思います。そうやって男性化した女性を最終的に男根でボコボコにするのが一番興奮するので」
若林「もうめちゃくちゃだな」
小山「先生さっきから様子が変ですよ。なんかビクビクして」
若林「今はそれどころじゃないんだよ」
小山「何か怖いことでもあるんですか?」
杉山「そうですよ、いったい何が怖いんですか。誰かに見はられてるんですか。おい!出てこい!あ、思考が盗まれないようにアルミホイルを巻かなきゃ」
若林「ち、違うテーマでもう一回やろう、やりましょう。次はうまく行きますから。えー……どうしようかな」
小山「僕がテーマだしましょうか?」
若林「お、テツオ君いいねえ。なんにしようか?」
小山「じゃあ原発についてとかどうでしょう」
若林「ずれてるよテツオ君。いつもは愛おしいけど今は厳しいなあ」
杉山「原発は良くないですね」
小山「お、杉山さんは馬鹿な左翼なんですね。先生はいっつも馬鹿な左翼を馬鹿にしているんですよ。安倍政権最高!」
杉山「ウワー!」
若林「テツオ君!」
小山「はい?」
若林「テツオ君ちょっとお茶とってきてよ」
小山「お茶ですかあ?」
若林「うんうん、冷蔵庫に入ってるのでいいから」
杉山「……みんな俺を病気扱いしやがって」
小山「本当にどうしちゃったんですか先生!いつも通りハッピーにエンジョイしましょうよ。からの~馬鹿な左翼のまね~(斉藤和義「ずっとウソだったんだぜ」を歌いだし、はけるまで歌い続ける)」
杉山「…俺は病気なのか?」
若林「もういいから、お茶とって来て!急いで!」
小山、お茶を取りにハケる。
若林「いやーすいませんね。なかなか難しいケースみたいで」
杉山「お前も俺を病気扱いするのか?」
若林「まさか。狂ってるのはあのテツオとかいうバカですよ。あいつは元から頭のネジが何本も外れてまして。もう、おまんこ野郎ですよ。それに比べて杉山さんは本当に賢くてジェントルで素晴らしい」
杉山、若林の声を打ち消すように「おまんこ」とわめく。
杉山「おまんこ。おまんこ!」
若林「素晴らしい。そうです。君はまともだ」
杉山「おまんこ!おまんこ!」
若林「そうです。そうやって吐き出して」
杉山「お、ま?」
若林「え?」
杉山「おま?」
若林「……おまんこ?」
杉山「おまんこ!おまんこ!」
若林「おまんこ!」
杉山「おまんこ!おまんこ!」
若林「おまんこ!おまんこ!」
二人、「おまんこ」が盛り上がり、その流れで踊る
杉山「うるせえ!!黙れ!!」
若林「え」
小山「(歌いながら登場)探し物はなんですか、見つけにくいものですか。(異変に気づき、動転してお茶を頭にかぶる。からのコップを杉山に渡し)あ、お茶でーす」
若林「ああもうだめだ。めちゃくちゃだ。殺される。あああ」
杉山「先生、彼女とかいないんですか?」
若林「…頼む、彼女だけは助けてくれ」
小山「え?先生彼女いないじゃないですか。なに見栄張ってるんですか」
若林「そ、そうそう彼女なんかいないよ。ちょっと口が滑っただけで」
杉山「先生、嘘ついてますね。写真見せてくださいよ。写真」
若林「…断じて断る」
小山「スマホ貸してください」
若林「駄目だ。お前は状況が分かってない。スマホは絶対に渡さない」
小山「喋りますよ」
若林「え?」
小山「いいんですか?先生がホリエモンとひろゆきの新書全部買ってること、喋りますよ?」
若林「な、なにを馬鹿なことを」
小山「若林さんが落合陽一のオンラインサロンで100万溶かしたのも喋りますよ」
若林「俺が100万溶かしたのはそんな馬鹿な理由じゃない!いや、あの、溶かしたっていうか、別に溶かしたとか思ってないけど(苦笑)、まあ世間では色々言われてるからさ。なんか逆にその程度の世界への解像度でよく生きてこられたなっていうか(苦笑)。俺は西野さんのとこで「実力主義の世界」にいるからさ。で、思うんだけどさ「逆に」、「逆に」だよ、世間では何にお金を使うかっていう選択がすごく軽んじられてると思うんだよね、というのも‥」
小山「バン!(小山、若林の頬を殴りつける。倒れた若林からスマホを取り上げ、写真を探す)」
若林「あ、何するんだ(若林、スマホを取り返そうとするが、杉山に簡単に制圧される)」
小山「お、これか。(スクロールの手を止め、画面をじっと見てからスマホを床に置き、バキバキになるまで踏みつける)ハアハア。可愛いですね」
若林「ああ、ああ…」
杉山「先生、検査を続けてください」
若林「もう帰って下さい。お願いします」
杉山「大丈夫ですか。もしかして西日が眩しいんですかね。おい、クソ気狂いが、突っ立ってないでカーテンを閉めろ」
小山「はい!」
杉山「ねえ先生、僕は正常ですよね」
若林「お願いだ、帰ってくれよお」
杉山「電話が鳴るかもしれないのが怖いんですね。おらキチガイ、電話線を千切れ」
小山「はい!」
杉山「まったく、気狂いは話が通じなくて嫌ですね」
小山「もぐもぐ、電話線は美味しいなあ」
若林「ああ、ああ」
杉山「おしっこを漏らしそうじゃないですか。後で掃除しやすいようにしときましょう。おら、新聞紙を敷け」
小山「はい!(新聞紙を広げながら)お、先生の大好きな「えんとつ街のプぺル」が載ってますよ!」
若林「はあはあ」
杉山「身体がぶるぶる震えてるじゃないですか。ガムテープで後ろ手に留めて安定させましょう」
若林「誰か、誰か」
杉山「口が乾燥するといけないですから口にもガムテープをしますね」
若林「ん、ん!!」
杉山「(ナイフで脅しつつ)さあ先生、これで安心して検査ができますよ」
小山「ピクニックみたいでなんだか楽しくなってきましたネ」
杉山、「検査をしてください」と若林に迫る。小山「♪別に君を求めてないけど横にいられると思い出す「お前の」ドルチェ&ガッヴァ―ナの♪ん?♪お前のドル♪あれおかしいな。お前の♪あ、あれだ。♪ん、お前の♪そうそうこれだよ」と歌い直し続ける。突如、ボロボロになったスマホが鳴り出す。全員スマホに視線。
〈結〉
杉山「どういうことだよ」
小山「すいません、思ったより頑丈でした」
杉山「なんて書いてある?」
小山「サキという、たぶん女みたいです」
杉山「俺はこれに出るべきだろうか」
小山「杉山さん、あなたはそれに出るべきです」
杉山、恐る恐るスマホを手に取る。若林抵抗しようとする。小山に制圧される。
杉山「もしもし。はい。……(声色を変えて)若林です。ええ、若林です。そうだよ、お前を愛してる若林だよ。今日は、沢山の人がいてな。あとよ、今ちょっと遠いところにいて。で、当分帰ってこれないわ(若林、大声で唸る。杉山、若林を殴りつける)。あ?犬だよ犬。大丈夫大丈夫。ああ、全部キラキラしてるよ。まっくらで、キラキラしてる。お前を連れてきたかったな。愛してるよ。ごめんな、かわいそうだな、かわいそうだ。じゃあな、切るからな」
杉山、スマホを切って投げる。しゃがみ込み、放心状態。
杉山「ああ、もう何にもならなくなっちゃった。何にもならなくなっちゃったな」
小山「どういうことですか」
杉山「え?」
小山「今の女は誰ですか?」
杉山「サキという女です。先生の恋人かなんかでしょう」
小山「あと、あなたは先生じゃない」
杉山「え?」
小山、杉山からナイフを奪い、刺す。
杉山「先生、検査を続けてください」
杉山、倒れる。小山、若林の拘束をゆっくり解く。口、腕の順番に。
若林「ゲホゲホ、おい、何がどうなったんだ」
小山「大丈夫です、全部終わりました」
若林「テツオくん!ありがとう、助かったよ」
若林、目をはがして自分で立とうとする。小山突き飛ばす。ナイフを突きつける。
若林「な、なにするんだ」
小山「あなたは医者ですね」
若林「……ああ、そうだ。僕は医者だ」
小山「では僕はなんですか?」
若林「君は、患者だろ?」
小山「そうです。あなたの患者です」
若林「ああ、そうだ、君は患者だ。そのナイフを、下ろさないか」
小山、椅子に結びつけてある紐を解く。若林の方に投げ捨てる。
小山「先生、西日が眩しいですよ。逃げましょう。誰も追ってこない、全部がキラキラしたところに」
若林「…でも、どこに行ったら」
小山「安心してください。ちょうどタイムマシンがあるんです。行きましょう、ジュラ紀に」
若林「そうか!よーし、ジュラ紀に出発!」
杉山「(ガバリと起き上がって)この二人がやがて人類存続をかけた大事件に巻き込まれるのは、また別のお話」
暗転。