sigurros_tetsuのブログ

事実をもとにしたフィクション

ニュータウン宣言とブログに書かないことについて 2022夏-2024年1月

ニュータウンVという名義で「ニュータウン宣言」というアルバムを出しました。サブスクで聴けます。いいアルバムです。これはその成立の過程についての記事です。

 

ニュータウン宣言 2024年1月リリース


1. ラッキーストライクと陰謀の歴史

2.朝定食(380円)

3. 月と眠剤、警備、警備、

4.たえろベイベー

5. 夜勤、夜勤(時給1,300円)※

6.残りの日

7.天使

 

作詞作曲編曲 小山哲 ※のみ作曲 ハルヤ

演奏、歌、レコーディング、ミキシング、マスタリング、アートワーク 小山哲

一部ギターとベース演奏 ハルヤ

 

Aこのアルバムは、全て私の住む4畳半のアパートで作曲され、ほとんどがそこで録音されました。この記事にはその過程の事実的な側面だけを時系列で記述しました。


Bこのアルバムは収録曲「夜勤(時給1,300円)」の作曲者で、ギターとベースを弾いてくれたハルヤと、ティザーの映像を作ってくれたヤエクラのおかげで完成しましたが、二人の貢献はここに書いてあることとはあまり関係がなく、むしろ精神的なものです。それを記事に書くことはできません。


①2022年の夏に仕事と学校をやめた私は、路頭に迷っていた。なんとなく乗っていた「普通」のレールから完全に脱落し、次になにをしたらいいかわからないまま、ポルノやYouTubeで聴覚と視覚を埋めることで、考え込んで死んでしまったりしないようにしていた。


②私はシラけた人間なので、23歳の自分のひどい現状を人ごとのように思っていた。が、シラけてみても生活になにも進展がなかった。停滞し続けたある日の深夜に、何かした方がいいな、と思った。メタを取って冷笑的なツイートをする暇があるなら、このひどい現状と、落ち込んでいる今の自分をなんらかの形にパッケージしてみよう、と思った。それで歌を作り始めた。


③その日から数日かけて、ボイスメモに即興で歌を録音した。ギターなど持っていないのでアカペラで。すぐに10曲ほどになった。友達のベーシスト(といっても何も活動していないアマチュア)に聴かせたら、悪くない気もするけど、形になっていないからわからないと言われた。次の週末に彼の勧めでギターを買って、二人で四畳半のアパートに泊まりこみ、ボイスメモにコード進行をつけていった。


④2回の合宿で、歪ながら5曲ほどが形になった。私はすぐに知り合いのドラマー(といっても高校時代に軽音部でドラムを叩いていただけ)に連絡し、三人編成のバンドを組んだ。とりあえず形にしなければ、と私は無根拠に焦っていた。その時は24歳になったことが大きな意味を持っている気がしていた。


⑤三人でスタジオに入って、私の作った曲を演奏した。何回かのスタジオ練習で、10曲ほどが形になった。私は二人を説得し、金を徴収し、4曲をレコーディングした。エンジニアはいい人だったが、プロによって整えられた私の曲はカッコよくなかった。もっと歪なままにした方が面白みがあると思ったが、それをどう伝えたらいいかわからなかった。納得のいっていない音源を目的もなく、しかし何かが起きることをどこかで期待して、ネットにアップした。


⑥音源を聴いたライブハウスの人に誘われて、何度か3人でライブに出た。手応えはなかった。練習を重ねる中で、メンバーに対して、自分のエゴを通さないと無難なことしか起きないが、エゴを伝えたら関係が壊れてしまう、と思った。その言い訳を反芻している私の演奏と歌は進歩せず、停滞したままだった。素人バンドの、妥協の末の演奏を誰が聴くのか。ライブのチケットノルマは捌けず、赤字が嵩むなか、気づいたらバンドは消滅していた。


⑦2023年の春にバンドが消滅して、私は再びポルノとYouTubeで時間を埋め、いよいよ金に困ると日雇いの仕事をする、というだけの日々を過ごしていた。停滞感は続いていた。ある日の深夜、何かした方がいいな、とまた思った。今度は全部自分でやることにした。作詞作曲編曲、歌、演奏、レコーディング、ミキシング、マスタリング、アートワーク、ディレクション、プロモーション。あと何が必要かわからないけど、とにかく全部。そうすれば言い訳できない。それでいいものが作れないなら、自分に才能がないと諦めて、違うことをしようと思った。


⑧10月に機材を買い、レコーディングを始めた。2ヶ月ほどそれだけに集中した。金はなかったが、遊ばなかったのであまり減らなかった。しかし音楽理論も知らず、ギターも歌も練習したことがない素人が、使ったこともない機材とソフトでレコーディングしているので、捗らなかった。私は一人で全部やることにこだわってテイクを重ねたが、結局どうしても弾けない一部のギターとベースを、友達のベーシストに弾いてもらうことにした。彼とはバンド消滅の付近で少し気まずくなっていたが、私のぼやけたイメージに理解を示してくれる友人は彼しかいなかった。


⑨2024年の1月にレコーディングが終わった。ボイスメモに録り溜められた歪な7曲が、歪なままパッケージされた。数少ない業界の知り合いであるトリプルファイヤーの吉田さんに音源を送った。制作の経緯は何も伝えていないのに、「人生のある時期にしか感じ取れなかった焦燥感とかぼんやりした薄暗さがパッケージされている」と、一発でコメントをもらった。あ、伝わるんだ、と思った。ほっとした。


⑩そうして「ニュータウン宣言」を2024年の1月にリリースした。全てがオマージュであることを示さないと欺瞞になる時代に、都心やタワマン街から外れた架空の平成的な住宅地で生まれた私の、シラけたたレペゼンとして