sigurros_tetsuのブログ

事実をもとにしたフィクション

千葉ロッテマリーンズのブルース

1

(明転)

B「えー、この星で千葉ロッテマリーンズが最後に優勝した1974年から現在にかけて経済は停滞と成長を繰り返しています。その中でも‥」

A「はい、タイムアップ」

B「‥まだ何も言ってないのに!!」

A「ダメだよ、ルールだから」

B「はい。‥じゃあ、ミュージックスターツ!」

A「‥だめだよ。やんないよ」

B「‥はい」

(暗転)

 


2

(明転)

A「いや、なんだかね」

B「はい」

A「なんだかこう、いい具合にならないもんかね」

B「なんだかですね。‥今日は、就活っすか?」

A「あ、これ?(髪を触る)そう。いつまでも無職ってわけにもいかないしね」

B「ついにっすか」

A「ついにっすね」

B「最後の砦感、あったじゃないすか?」

A「俺が?」

B「はい。なんか、ついにって感じですね」

A「まあな。マーラータン麺」

B「え?」

A「いや、別に」

B「はい」

A「あのさ」

B「はい」

A「俺こないだからさ、犬ドッグって言ってたの覚えてる?」

B「言ってましたね。鳥バードとか」

A「そう」

B「猫キャットは意地でも言わなかったですね」

A「まあ、猫キャットは違うよね。でもさ、あれ松本人志が先にやってたんだよね」

B「あ、そうなんすか」

A「松本人志も猫キャットは意地でも言わなかったぽくて。そこも被ってるわけ」

B「はい」

A「結構気に入ってたんだよね。もう、負けた、と思って、俺」

B「あー」

A「負けたんだよ、ほんと」

B「はい」

A「終わりだよ。だから、就活」

B「あーなるほど」

A「そう。全部終わり。小町、通り」

 


A「ハクション!‥あ、アクション!自分語り、入りまーす!‥セミ、鳴いてんなー」

B「‥そうすね、残暑」

A「俺はさ、セミになりたいな」

B「セミすか?」

A「そう、セミセミには、罪がない、悪もない。ただ理不尽な暴力があるだけ。罪がないんだから、その暴力は罰でもあり得ない。わかるか?そうあるべきなんだよ。…俺は社会的に完全に悪で、だから善人が俺を裁くわけだ。罰を与えるわけだ。つまり本当はね、セミなんかじゃないんだよ、俺がなりたかったのは。俺は、善人になりたかった。もちろんなんの罪も持たない人なんていない。でも自分を善人だと思えるような人になってみたかったよ。例えば、女。女には罪がない。そう、でも俺は本気。女たちは決して自分の罪を自覚することはない。そんな生き物と分かり合おうということの方が無理な話だ。うん、俺は、うん、そう思う」

B「あれすか、岡田に振られたのまだ引きずってるんですか?」

A「まあ、岡田のバットはすごいからな」

B「下ネタはやめてくださいよ」

A「そうじゃないだろ?」

(Bわざとらしく咳払いして)

B「シモーヌ・ヴェイユの思想を知っていますか?ヴェイユは「自己無化」の思想家なんですよ。神の恩寵を光とすると、「私」というものはその光を遮ってしまうわけです。つまり簡単に言えば、私のこの「エゴ」とか、「人格」みたいなものが罪を作っているんです。だから自分というものを透明にして、恩寵を遮らないようにしようというのがヴェイユの思想なんです。で、ヴェイユがどうやって死んだか知ってます?餓死です。戦争に行った友人の苦しみを思って、ご飯を食べなくなって、それで30代で死にました」

A「なるほど。で?」

B「いや、それで終わりです」

A「で、本当のところは?」

B「後輩に手を出して振られて凹むってマジでださいすよ、先輩」

A「ごめんて。明日も練習来てくれるかな?」

B「行きますよ、気が向いたら」

(暗転)

 


3

(明転)

C「しかしせっかくの誕生日なのに女の一人もいないのかよ。‥あ、君はいちおう女でやってるというか女で飯を食ってるんだっけ?いいねえ、女は」

(全員、笑う。D、立ち上がる)

D「じゃわたし女なんで全員分の水取ってきますね」

B「で、Cさんは今後どうする予定なんですか?」

A「お、今後の展望、気になるね」

C「いやー革命ですかね」

A「いや、そういうんじゃなくてさ、もっと身近な、ほら例えば今から三年のうちでなんかするみたいな、そういうのないの」
C「それで言うなら、本棚を買うことですね」

A「いや、身近すぎるだろ。なんでお前はそうゼロか百かなんだよ」

B「そうっすよ。てかさっきのCさんの冗談ヤバいっすよ。ほらD帰ってこないじゃないですか。どっかで泣いてるんですよ、きっと」

C「わかってねえな。泣きゃいいんだよ、泣きゃ。悔しかったら俺を泣かせてみろよ。飲み会はスポーツだ。そうだろ?」

(暗転)

 

(明転)

B「公園。AとBとCとEがいる。そこにヤンキーが来る。ヤンキーは、酒、あります?一緒に飲みません?と言って近づいてくる」

C「ああ、酒?あるよ、飲む?」

(Bにスポット。ABCパントマイムを挟みながらクネクネと動く)

B「これはやばいな」

C「とBは思っていた」

B「ヤンキーたちはズケズケとこちらのテリトリーに踏み込んできて、AさんとCさんはこんなの慣れっこだ、という風に対応していた」

C「そーれーでーそーれーでー」

B「ふと、Cさんがこう言っていたのを思い出した」

AC「飲み会はスポーツだ。そうだろ?」

C「どうする??どうする??どうする??どうする??(Bのセリフが終わるまで続ける)」

B「もう終電で帰るからさ、ちょっと今日は勘弁してよ、ほらこのお茶あげるから、と言った」

C「あるいはこうも言えるかもしれない」

B「それを聞くとあいつらは俺の手渡したお茶の蓋を開け、俺の靴にぶちまけた」

C「暴力は徹底的に非理性的なものであり、言語化されると即座に暴力への反省された意思とでもいうものに変わってしまう」

B「ちょっと勘弁してよ〜」

C「であるからサドを礼賛することはサドの暴力性を損なうことになる」

B「俺は冗談めかしてそう言った」

C「一度、理性を通して新しい快楽に変身すること」

B「冗談めかして言うことしかできなかった‥!」

C「自分が孤独者であること、自分の欲望が、暴力性が不合理であることを認め、声高に語ることをやめなければその矛盾を超えられない!」

B「恥ずかしい!恥ずかしいよ!!!!」

(B泣き崩れる)

B「みんな、恥ずかしいことを隠蔽しているんだ!恥ずかしいからツイートするんだ!恥ずかしいからルールを作るんだ!恥ずかしいから勉強するんだ!恥ずかしいから、いやしかしそれは悪いことなのか?」

C「ショートコント、うんこ寿司」

B「大将、うんこ一丁」

C「あいよ。ブリブリブリ」

B「ぱくっ!!!おえーーー!!!!(暗転まで咳き込み続ける)」

C「飲み会はスポーツだ。そうだろ?」

 


(暗転。そのままセリフが始まる)

C「で、AさんとBがやってるっていう稽古はどうなんすか?なんか、発表とかするんですか?」

A「いやー今のところただクネクネ動いたりホン読んだりしてるだけね。あんまりスポ根みたいに追い込んだりするの、もう嫌なのよ」

C「そうっすか」

A「そうっす。トーシューズ」

C「え?」

A「いや、なんでもない」

 


4

(舞台上に自転車を持ったAとタバコを吸う老人に扮したC)

C「君、あれかい?そろそろ就職だろう」

A「そうですね。そろそろ就活を始めます」

C「何にするとか決めてるの?」

A「いや、全然。ぼんやりと出版かな、とか思ってますけど」

C「出版は大変だよ。もっと安定した仕事がいい。そうだな、うん、鉄道とかな。俺の甥っ子がな、九州大学卒業して、九大だよ、名門の、九州大学。それで、九州大学卒業してからJRに入ったんだよ。今はそれで総武線の運転手してんの。総武線ね、東京の。嘘じゃないよ。本当の話。だから鉄道だな」

A「なるほど。そうですよね。鉄道、潰れないですもんね」

C「ああ、そうだな、たしかに、うん、ははは」

A「‥じゃあ、僕そろそろ‥」

C「俺の会社な、潰れてないよ。鉄道じゃないけどな。本当だよ。名前も変わってない。周りの一部上場の銀行は潰れたよ。A銀行って知ってるだろ?潰れてないんだよ。本当の話だよ、これは。…確かに鉄道は潰れないよな。でもなんだっけあれ、JR北海道は危ないよな」

A「‥そうですね。北海道はほんと貧乏くじというか、人がはいらない路線多いですもんね」

C「ああ、うん、ははは」

(A、会釈してイヤホンをつける。それから自転車にまたがる)

C「ちょっと待ちな」

(A、イヤホンを外しかけて、やめる)

A「え?」

C「いい話があるんだ」(A下を向く。リズムを刻む。天体観測を歌う。そして不意に止まる)

A「‥ロッテが今日も負けた?」

C「こんな話だ。再開発された駅前で、新しい駅前の機能についての説明会が行われるという」

A「涌井があんなに頑張ったのに?」

Cタウン誌の片隅に小さく書いてあった。それはほんの4行ほどの白黒の広告で、主催者の名前も連絡先も載っていなかった」

A「ロッテは今日も負けた?」

C「日時は7月の最初の火曜日、つまり今日の午後3時だ」

A「ちょっとしたミスで負けた?」

C「時刻は2時40分で、2時45分からのアルバイトに行く気が起きず、遅刻が避けられないことが分かると駅前に向かった」

A「何のための前進守備だ!!!!」

C「あれが新しく設置されたんですよ、と彼女が言う」

A「代打!ロッテ岡田!!!」

C「斜め上を指差していて、その先にあったのは」

A「46打席連続無安打‥」

C「ソーラーパネルと小さい風車が付いた電柱だった」

A「代打岡田に代打‥????」

C「お前はそれに近づく」

A「どーする??どーする?」

C「よく見るとそれが設置されている柱に張り紙がしてあった」

A「考えろ!確率を考えろ!」

C「お前は、それを読む」

A「岡田!岡田!岡田のバットはすごいんだぞ!」

C「「私たちは税金を使って奇怪な装置を設置することに強く反対します」と書いてある」

A「監督おかしいですよ!」

C「おかしいのはお前の打率だ!!」

A「繋いだ!繋いだ!日本文理の夏はまだ終わらない!」

C「思い出せ!思い出せ!」

A「どこかの誰かもこれが自律した機関であることに気がついたのだ」

C「岡田は、日本文理の出身じゃない‥??」

A「ロッテは今日も負けた」

C「じゃあ誰だ、お前は誰だ」

A「俺はしばらくその張り紙を眺めた後、こっそりと破りとった」

C「僕は、エヴァンゲリオン初号機パイロット‥??」

A「何のための前進守備だ」

C「違う、違う。俺の名は」

A「俺の名は!」

C「千葉ロッテマリーンズ、エリア66!岡田幸文!イエエエエエエエエイ(ここまで全力のサンシャイン池崎)ミュュュュュュュジック!スターーーツ!」

A「はーい調子はどう?

いい?グーオッケーあレッツラゴー

あら素敵な笑顔ねチャーミング-

ファッショングースタイルグー

あなたはグー私もグー

今夜はコンパでダンシング-

友達コンパをセッティング-

私は浮いてるキャスティングー

聞き流されるトーキングー

帰りは一人でボウリングー

グーグーグーグーグー

ホップステップジャンピングー

グーググーググーグググググググググーコォー!」

C「う、うおおおおおおおお」

A「ロッテは今日も負けた」

C「46年ぶりなんだ!46年ぶりなんだぞ!!」

A「風車は風向きに逆らって、ギイギイと音を立てながら、孤独な回転を続けていた」

C「おまんこ!おまんこ!」

A「で、本当のところは?」

C「ロッテは今日も負けた」

(暗転)